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 多分エスタンプや複製版画と呼ばれる分野の作品に関することを、創作版画の分野にまで
一般化して、「リトグラフやシルクスクリーンは刷り部数が多いので価値がない」等と仰ったのかと
思いますが、無責任な一般化は実害が甚だしいので少々長いかもしれませんが記載いたします。

 まず工業的云々の話ですが、リトグラフは工業化するとオフセット印刷になってしまうので、
もう版画ではなくなってしまいます。シルクには版画的分野にはフルオートの方法は元々ありません。
ビンや缶、テキスタイルやICチップには工業的印刷方法は存在しますが、大がかり過ぎて版画には
適用できないので。シルクのポスターなどでも基本的に全部手刷りです。

 刷り部数が多いというのも、元々銅版に比べてリトやシルクが耐久性に優れるため、
多数の印刷が可能だということに過ぎません。現在では銅版もメッキを施すことによって
何千枚でも刷れるようになっていて、版の耐久性による部数の差というのは、既に意味がないこと
なのです。

刷り部数の問題はエディションナンバーの母数をみればわかることなので、
版種に話をすりかえてはならないのです。

 今回のことで一番引っかかった点は、エスタンプとオリジナルプリントの違いを
理解されていないか、理解されていても区別していないことです。

 つまり商売のためにオリジナルの原画から版画的技法で複製して、エディションナンバーを
いれた商品と、作者が版画をつくるために原画から描いて刷った(あるいは刷らせた)芸術作品を
一緒くたにしてしまっては困るということなのです。

 私は自分で原画を描いて製版し、小部数の刷りまでやっておりましたので、
正直今回の話は迷惑な話だと感じざるを得ませんでした。

 今回のことで仰りたかったことを推測しますに、
上記したエスタンプといわれる、芸術作品や人気ヴィジュアル作品の複製版画化が、ここ数10年
美術業界に横行していて、画廊などの版画ショップで通常のオリジナルプリントと区別のつきにくい形で
販売されているという実態に対する、ごく一般的な批判かと思うのです。

 有名な画家の中にはピカソのように大量の版画を残した人もいますし、生前にはほとんど
版画を刷らなかった人もいます。絵は基本的にこの世に1枚しか存在しないものなので、自然に
単価が高くなります。1000万円単位、または億単位のお金を用意しないと、有名な画家の絵を
手に入れることはできません。つまり限られた階級の人たちだけが取引するものだということですね。

 しかし、複数ある版画だと、単価を二桁か三桁下げることができるのです。なので版画なら
無理をすればどなたでもピカソを買えるのです。ここは先ほど仰っていたことかと思います。

 実際、銀座の版画専門の画廊でレオナール・フジタの子供の労働を描いた小さな版画の
組み作品が1セット250万円で出ていたことがあって、買うかどうかで2日ぐらい悩んでいた方を
知っています(=藤田嗣治のことです)。

 不景気でコレクターや企業が高価な絵を買わなくなり(景気がよくても絵は簡単に動かないので)、
画商は版画を売らなければ商売にならないという仕組みがあります。売れる人気作家は限られていて、
その売れ筋の作家がピカソのように都合よく版画をたくさん刷っているとは限りません。

 そこでエスタンプが登場します。画家が存命ならば、売れそうな商品のエスタンプ化を、
本人の了承&エスタンプ上のサインを頼みます。没後であれば、遺族などの権利者に同じことを
頼み、リトやシルクで写真製版の複製を作るのです。

 これは版画を刷るために原画を作ったのではなく、既にある作品からトレースまたは
写真から版を起こすので、完全に「複製」です。

 こういった「版画」が沢山あって流通しているわけですが、素人には版画で刷られている為に
原画を描いたオリジナルプリントと区別がつきにくくて、不当に高価に売られているものに手を出して
しまうというわけです(エスタンプもわかって買うのなら、ステキなものもあります)。

 技法もきちんとした版画技法で、エディションナンバーもサインもはいってるけど、実態は
複製である・・・といったものがリトグラフで多く作られていて、それを勘違いで買ってしまう、
結果的にだまされた!!という方が多く存在する。ですから今回のような批判も存在するの
かと思います。ごもっともです。

 今回話題となった、天野義孝氏のような、グラフィックアーティストの作品を版画化し、
数万円で売っている、という例はよく見受けられます(ここについて仰っていたのかと思います)。

 これらとは別に、ヒロヤマガタや笹倉鉄平等の流行画家や、鈴木英人等のイラストレーターが
人気にまかせて、大変な部数のリトやシルク版画を作り(しかも高価な値段で売りまくっていた)ことも、
仰っていたこととは完全に無関係ではないと思います。

 これはこの作家たちの罪ではないと思いますが、一世を風靡するような人気というのは、
やはり流行が終わると転売するとき馬鹿みたいな値段になってしまうという・・・(部数も多く
百万円単位でも手に入れたい人がいるので)。

 色々書きましたが、
シルクはまだギリギリ現役の印刷技法であって、こういった大部数に、リトとともに対応しやすい
技法ではあるので、どうしても認識の浅い方々に、限定部数にも関わらず同じ扱いを受け、槍玉に
あげられることが多いです。

 オリジナルかエスタンプか、限定部数は何枚か?という認識なく、安易に
「リトやシルクは大部数発行しているし、希少価値はない!」と仰っているのは甚だ遺憾です。
この点、切にご理解頂ければと思います。


 今回の主張の背景は、上記で申しましたように若干違っているように思います。
流通の現実を踏まえた上で仰っていた一般論を、勘違いのせいで信じ込まされているのでは
ないかと。版に関わっていらっしゃったのかどうかはわからないのですが、もし未経験なのであれば、
理解も配慮も一切なくこういった発言をしてしまうのは残念でありません。

 以上です。
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by otyou0710 | 2010-10-23 00:53 | 雑記

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by otyou0710